リトル・ダンサー

 

 

18歳。

「女性」というには、まだ可愛らしさが残る年頃。かといって「少女」と言うほど子供じゃない。

「オンナノコ」という表現が一番しっくりくるかな? と感じる、ちょっぴり恥ずかしがり屋な萌乃ちゃん。

「ただバレエが好きだから踊りたい」と真っ直ぐな想いを抱きながら大きな病気と闘ってきました。

 

-未来に希望を見る日もあれば、絶望を感じる日もあった。

-家族と励まし合う日もあれば涙が止まらなくなる日もあった。

 

「病気を乗り越えたらバレエの発表会をするんだ」

この夢を忘れず入院中もストレッチをしたり「今できること」を見失わずに頑張ってきました。

 

しかし、試練はやってきます。

目標としてきた「来年の発表会」では、今持てる力を発揮できるか不明瞭になったのです。

ずっとずっと発表会を目指して頑張ってきたのに……。ご家族も一緒に泣き崩れました。泣いて泣いて泣いて。

立ち上がろうとしても、また泣いて。でも、次に行こうと決めました。

「泣いている間ももったいない」先に涙を振り切ったのはお母さんでした。

 

「来年のことが分からないなら、今、やろう。1人だけでも発表会をしよう」

言ってみたものの見たことも聞いたこともない挑戦に、萌乃ちゃんもご家族も不安でいっぱいです。

 

そこで出会ったのが石井 誠人さん。病気があっても精一杯生きている人を撮影する

『アライブ・フォトグラファー』です。写真を通じて『生き続ける』ことに繋がれば、

という思いで活動されている写真家さんです。バレエの練習風景を撮影しながら石井さんは言いました。

「萌乃ちゃんの晴れ舞台、しっかり写真を撮るからね」

 

心強い応援者ができた瞬間でした。新たなチームが生まれ「バレエ発表会をしよう!」と決意を固めました。

元々シャイな面もある萌乃ちゃんでしたが、

みんなと一緒に覚悟を決めました。発表会の日取りもすぐに決めました。

萌乃ちゃんの真っ直ぐな夢を知り、主治医、病院のスタッフ、家族、友人、学校の先生、バレエの先生、みんながサポートしてくれました。いつのまにか萌乃ちゃんチームは大所帯になっていたのです。多くのエネルギーが萌乃ちゃんの夢実現のために集まりました。

 

「絶対にバレエ発表会するぞ!」

しかし、また、試練が与えられました。病状の悪化です。バレエ発表会直前に入院することになったのです。

 

今まで十分に頑張ってきた。やれることはやった。もう、いいよ。大丈夫、良くやった。

 

誰もが彼女の現実に慰めの言葉を言いたくなったことでしょう。しかし、萌乃ちゃんは違いました。

「私、バレエ諦めてないよ」

彼女の真っ直ぐな想いに、固く誓った夢に、再びチームは心動かされました。

 

もっともっと大きなチームになり、もっともっと強いエネルギーで彼女を応援しました。改めて発表会を計画。その間も、不安定な病状に幾度となく計画を修正しました。

「それでも、もう、絶対にやる」

本人の真っ直ぐな想いは、多くの人の心を動かし続けました。

そして迎えた2018年10月。

高く青く晴れたその日、萌乃ちゃんのバレエ発表会は行われました。

 

彼女を応援する方々、彼女を大切に思う方々、彼女が恩返しをしたいと思う方々へ今できる最高のバレエを披露したのです。会場にいる誰よりも生命力に満ち溢れ、輝き、したたる汗もまた、彼女を飾るジュエリーのようでした。

 

大人びた女性としての美しさ、たくましさ、華やかさを身にまとい、指先一本一本に大切な想いが込められているのを感じずにはいられません。「魂が震えた」この言葉でしか表現できないことが悔しいほど、ものすごい感動がそこにはありました。

 

踊りきり、まだ息が上がった状態で、彼女は最高の笑顔でこう言いました。

「夢が叶いました」

はにかむ彼女は、やはり18歳のオンナノコ。

あどけなさが残る、純粋で真っ直ぐで、家族から大事にされているオンナノコ。

 

拍手を送る家族や友人、仲間たちと手を取り合い、涙を流したり笑い合ったりしました。涙と笑顔と感動が混じり合い、あたたかく柔らかい空気が彼女らを包んでいきました。

 

あの日から5ヶ月、彼女は次の夢を持つため毎日「生きて」います。

18歳らしく将来を考えることもあるでしょう。今の生活はどうなのかな? と向き合う日もあるでしょう。彼女らしく、日々、生きている毎日はバレエ発表会をきっかけに何かが変わったのかもしれません。

 

「ただ好きだから踊りたい」

 

私たち大人も、彼女のようなこの気持ちを忘れずにいたい、そう教わった気がします。

「ただ好きだから」という想いは、夢みたいな奇跡を起こしてしまうのだから。

 

 

ナース ×ライター 

土田ひとみ

 


萌乃ちゃんと最後に会った時。
萌乃ちゃんと最後に会った時。

上記は友人であり私の活動に賛同してくれて、ライターとしても活躍している土田ひとみさんに2019年3月に友人のお花屋さんでアライブフォトグラフィーの写真を飾らせてもらった時に寄せてもらいました。

 

その一ヶ月後、僕は萌乃ちゃんを訪ねました。

楽しそうに大好きな食べ物の話を沢山してたオンナノコでした。

それから一ヶ月後、2019年5月15日、萌乃ちゃんは天国へ旅立ちました。

萌乃ちゃんと最後に会った時の手紙の一文です。

 

「自分がかっこよく踊れている!」と思ってしまったほど、石井さんの写真は、かがやいていました。

私に勇気をありがとうございました。

 

 

死が近づいていても、バレエが大好きで

一生懸命踊っていました。

僕に生きる事を教えてくれました。

僕に写真というものを教えてくれました。

ありがとう。

天国でも沢山踊ってるかな?

 

アライブフォトグラファー 石井誠人